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「椿姫」《La Traviata》 Program Note

長尾義人

VOC第二回音楽会プログラムのために

若干24歳の青年がわずか8日間で書き上げた小説「椿姫」が1848年に出版されると、彼は一夜にして名声を博することになりました。その青年の名は、アレクサンドル・デュマ・フィス(Alexandre Dumas fils:1824-1895)。あの『三銃士』や『モンテ・クリスト伯』の著者で、フランス・ロマン派の大衆小説家であり戯曲家を父に持つ彼の名前には、同名の父と区別するために、「フィス(息子)」という言葉が付けられています。しかし、偉大な父を持ちながらも、彼自身は私生児として常に社会的矛盾に苛まれながら成長してきたのです。この社会的な矛盾への眼差しが、彼の悲恋と結びついて、この小説が生み出されたのです。また、当時のパリの文化の一翼を担っていた高級娼婦の生活とその背後にある社会的偏見がまた、ここにみごとに描き出されているのです。さて、彼は翌年、この小説を幕物の戯曲に脚色しています。後に彼が、19世紀後半のフランスの社会風俗をテーマとする戯曲家となることを予見させています。しかし、社会風刺的なものへの過剰な検閲制度によって、ようやく1852年にこの戯曲は上演されるのです。

さて、ヴェネツィアでの『リゴレット』初演が1851年に行われ、大好評を得たG.ヴェルディ(Giuseppe Verdi:1813-1901)は新たに新作を依頼され、その後パリに赴き、その時にこの悲劇に接し、大きな感銘を受けて、それをオペラ化することを決心します。その台本は、ピアーヴェによって1853年1月早々に完成されていたらしく、ローマで彼の『イル・トロヴァトール』初演(1月19日)のための練習期間中もその作曲が行われていました。そして、1853年3月6日にヴェネツィアのフェニーチェ劇場で初演が行われました。しかし、この初演は、当時のオペラがオペラ・ブッファ以外で現実の風俗を舞台に映すことを許さなかったこと(オペラ・ブッファを例外として)、歌手の選択の誤り(特に、主人公のヴィオレッタが肥満堂々の体型であった)、などで失笑をかいこそすれ、成功にはほど遠いものでした。ヴェルディは、大いに失望しますが、場面を13世紀に代えたり、音楽的に手直しし、欧州各地で上演を重ね、1853年12月6日にパリ初演をフランス語で行い、また、20世紀に入ると優れた歌手が現れると、本来の形で上演されるようになり、現在では、ヴェルディのオペラの中でも最も親しまれている作品の一つとなっています。なお、原題は『椿姫』ですが、『ラ・トラヴィアータ』という題名は、このオペラの第三幕でヴィオレッタが自らを悲痛な思いで語る言葉、つまり「道を踏み外した女」という意味です。


『 乾杯の歌』
第1幕 第2景 (アレグレット、変ロ長調、3/8拍子)

前奏曲に続いて第一幕の幕が上ると、高級娼婦として社交界で最も注目を集めているヴィオレッタの客間が現れ、華やかなパーティーが行われています。客人たちの短い合唱のあと、ガストーヌ子爵が友人アルフレッド・ジェルモンを連れて登場します。

子爵は、アルフレッドを紹介しながら、彼がヴィオレッタに恋心を抱いていることを告げます。そして彼女に促されて彼は、有名な「乾杯の歌」を歌います。その歌に一同も加わり、ヴィオレッタもそれに答えるかのように青春の愛を讃えて歌います。


『まあ、青い顔』
第1幕 第3景(アンダンティーノ、ヘ長調、3/8拍子)

心臓発作で倒れたヴィオレッタが小康を保っているときに、彼女を心配して佇んでいるアルフレードに彼女は気づき、彼のヴィオレッタへの一年にも及ぶ純粋な愛を知ることになります。この一途で穢れない彼の愛に触れ、彼女自身の内に何か新しい変化が起こることを感じ取ります。ひたすら秘めてきた彼の想いに、自らの高級娼婦という現実とその愛に応じようとする心情との葛藤の中で、ついには真に愛されることの歓喜に二人は身をゆだね、晴れやかで華麗な声のアンサンブルを奏でるのです。


『ああ、そはかの人か〜花から花へ』
第1幕 第5景(アンダンティーノ-アレグレット-アレグレット・ブリランテ、ヘ短調-ヘ長調-変イ長調、3/8拍子-6/8拍子)

アレグレットのレチタティーヴォでヴィオレッタがアルフレードの純粋な想いに、それまでの彼女の生活とは異なった不思議な愛の予感が語られます。その後有名な彼女のアリアがアンダンティーノで続きます。ここで「なぜか妙に( stano、 stano)」いう言葉は、最後の死を迎える場面にも語られる言葉です。高級娼婦として男性との関係を考えていた彼女が、初めて心ときめく真の愛に戸惑う心境が歌われます。そして、これに続くカバレッタ「花から花へ」では、この愛に心奪われていく自らを否定するように、快楽に身を委ねる生活の放埓さを歌い上げるのです。しかし、この彼女の自己否定は、その後の悲劇的な運命をはかなくも物悲しく予感させるのです。旋律は明るく華やかであるにも関わらず、空しい夢の世界に生きなければならない彼女の生活を哀しくも伝えているのです。


『燃える心を』
第2幕 第1景(アンダンテ、変ホ長調、3/4拍子)

「一人きりでは面白くない」というレチタティーヴォで、ヴィオレッタから離れて一人過ごす空しい日々をアルフレードが語ります。そして、生気を取り戻した彼女と二人で田舎暮らしをする日々を夢見て、彼女への燃えるような愛の想いを歌います。伴奏の独特のリズムが彼の切々たる思いとそれによる鼓動を感じさせます。


『パリを離れて』
第3幕 第5場(アンダンテ・モッソ、変イ長調、3/8拍子)

ヴィオレッタの愛に疑いを抱き遠ざかっていたアルフレードは、彼女の真実の想いを知り、彼女に許しを乞うために、瀕死の彼女を訪れるます。二人の愛の絆が強く結ばれていることを喜び、二重唱でこの歌を歌います。そして、二人は将来の幸せな世界を夢想し、それに力づけられてヴィオレッタは、ベットから起き上がり、唯一の彼女の夢である彼との結婚を求めるのです。

この後彼女は、夢見るかのごとく結婚のイメージの世界に入り込み、いじらしくも切ない愛の夢の中に倒れ臥すのです。音楽は彼女の途切れ途切れの、心から振り絞るような声は、アルフレードの絶えがたく重い悔悟の念と交錯して、美しくも哀しい出来事を描き出しているのです。


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