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■音楽を始められたきっかけは?

周りに「音楽大学があるよ。行ってみたら」と言われたのがきっかけ。

分からないうちに色々な人のお陰があって今まで来ました。自然に来すぎて悩みのないのが悩みなくらい。ある時ふとそれがどれくらい有り難い事かに気付き、幸せボケであることに凄い焦りを感じて一人、もがいた時もありましたが、いつも導いてくれる大きな力があったし、今もあると感じます。

父親が音楽好きで、私が幼い当時、今より小型で重いレコードを大きなステレオでよく聴いていました。大きな器械で、私も小学校高学年で操れるようになると、ジャケットの綺麗なレコードを選んでは聴いていた思い出があります。

でも、音大に行くことに反対したのは父。「そんなんは万に一人しか出来へんことやから、そんなことはするな。音楽は聴きたい時に聴くのが一番や。」と反対されました。それで当時、父のもとで仕事をしていた米国人宣教師ドゥウェンさんを通して指揮者の秋山和慶先生に見て戴くことになりました。高校一年の音楽の教科書に出ていた歌曲を練習し、フェスティバルホールの楽屋に行って秋山さんの伴奏で歌いました。秋山さんの言葉は「頑張って勉強しなさい」。それをきっかけに、高校一年の終わりから歌を勉強し始めました。

■野間さんの声はメゾソプラノですね

学生の頃は「私の声は何でしょう?どこに当てはまるんでしょう?」とよく質問していました。高校から大阪音楽大学四年生までは高須礼子先生に教わり、大学院助手時代は田原祥一郎先生に学びました。思えば秋山先生が「田原先生に習えるようになったらいいねえ」と言って下さったその方に学んでいました。田原先生は「メゾでもソプラノでもアルトでも、何でもいい。歌えるものを歌えばいい。誰かが決めた分類に自分を当てはめなくていい。出るその声が野間さんの声や」と仰って下さいました。

思えば当時は若すぎて、全てが土作り、栄養づくりの時期で、大人になって、一つ答えが見つかった時に、昔先生が私に言ってくれたことだったなあ、と素晴らしさが分かったりします。当時、「今この子に言っても解らない」と知っていたかもしれないのに、念じるように言い続けてくれたことが有り難いことだったと、自分が教える立場になってみて分かります。だから今、自分が教える時も「今言わないと一生口に上らないかもしれない」と考えて取り敢えず言うようにします。受けたものを生徒に伝える立場になっていることが嬉しいし、皆からもたくさん返して貰っています。好きなことが仕事になっているのは嬉しいことです。

■ところでオフには何をなさるのですか

オフの時間は作るようにしています。家にいることもあるし、気分屋のB型なので朝起きて今日は何をしようかなあと考えることも少なくありません。大阪のド真ん中に住んでいるので、緑に触れに行ったり。普段は遊び上手ではない方かも。何年かに一度海外に行くような時には、ホテルには寝に帰るだけというぐらい遊びます。お金と時間はちょこちょことは使わない性質でしょうか。

■海外でも学ばれましたね。昨年は南仏とノルウェーに行かれました

色々な国にも、音楽をやっているから行けるのかも。イギリス王立音楽大学大学院へ留学したての頃、言葉でのコミュニケーションがままならない時にすぐレッスンが始まりました。先生がピアノを弾いてコーチングするコレぺティの時、先生は音で私に説明し、私自身も声で問い返したら、そこに言葉や理屈ではない今までになかった空気が生まれたのです。その時、音楽があらゆる国境、あらゆる言語を乗り越えた万国共通語だ、と生まれて初めて実感しました。音楽をやっていたからこうやって外国の人とも心を通わせることが出来るんだ、と。それ以来怖いものが無くなってしまったかも。今でも大学の季刊誌がエアメールで届くのですが、当時の仲間の活躍が分かったり、今の学校の様子も書かれていて、また行ってみたいと思います。

■仕事として、今は合唱でも歌われているのですね

所属している神戸混声合唱団は、留学時に一時中断はしましたが、平成元年の結成以来ずっとメンバーです。それまではずっと一人で歌うのをやっていたので、合唱団に入った時、合唱というものが分かりませんでした。それまでの自分は、感性に任せて歌いよいように歌ってきていて、ある意味、自己中心的。でもハーモニーは、個々が突出するものではありません。それが分かるまで時間がかかりました。そこで初めて悩んだかもしれません。どう歌えばいいんだろう、ハーモニーってなんやろか、と。全く違う価値観だから、そこで本格的に鍛えられることで(大袈裟かもしれませんが)人間が磨かれた気がします。

オペラは、違う役割を個々が演じ、それらを一つの板の上に載せた時、いかに一人一人の人間を輝かせられるか。合唱はもう一つ深くて、個々が才能も持ちあわせたうえで、自我を捨て去る。自分の声を出すより、隣の人の声、他の人の声を聴く。皆が気持ちよく歌い易いように自分も歌う。皆で一つのものを感じながら時々は自分のアイデアは捨ててしまわないといけない時がある。その代わりに、自分では思いつかない新しい発見、新しいハーモニー、新しい音楽が巨大になって生まれ出てくる。

神戸混声合唱団は、一人一人を見るとはオペラの主役になるような人ばかりが集まっています。でも最初はお茶を飲みながら毎週何時間も話し合いました。互いが分からず、自分がどうしたらいいかも分からずで、色々揉めたわけです。でも、いい音楽にしたい心は同じ。今はいい団に落ち着いたと思います。

■野間さんはオペラが一番好きなのですか

そうとは言えません。好きなオペラと好きではないオペラがあります。共感できないものは歌えないんです。心が揺さぶられないものを歌わなければならない時ほど苦しいものはなくて、作品自体が素晴らしくても歌えないものもあります。声は肉体から出るもので、でも肉体の中には目に見えないものも詰まっている。それら全部の波動が合わないと声が出てこない。すると苦しくなる。あるイタリアの偉大なオペラ歌手の言葉で「歌っている時は、まるでラジオになっているようなもの。自分で咽喉を鳴らして歌うのではなく、ラジオのアンテナが電波を受信してそれがスピーカーを通して流れ出る。歌うのはそれと同じ」と言った言葉をいつも思い出します。

言葉なり内容なりがその作品から電波のように出ている。それを自然にキャッチできた時、声が出ていく。でも身体、心、魂というチューナーが合うまではキャッチ出来ない。音の流れの中にメッセージを感じることもあります。

逆に、感動できるものは何でも好き。オペラ、歌曲、宗教曲など何でも。出不精なところがあり、言われないと今に満足しているタイプ。紹介されて食べてみておいしかったら好きになってしまう。美術館に行っても好きなコーナーに行って、好きやなあ、と思って浸るタイプ。だからこそなるべく色々な音楽を聞くようにしています。

また、伝えたいと思う演奏もあれば、自分が近づきたいと思う作品もあります。考えすぎかもしれませんが、音楽はいつも、高くて深くて大きくて、さり気ない一つの言葉(メロディの中にある世界、それはその音楽が生まれてくる前のバックグラウンドですが)が見えないと歌えない。いつも色々の方向からその曲を見ていかないと身体が反応しないのです。作曲者の作りたかったメッセージを自分が発せられたら物凄くラッキーな事。時には、これ、凄くよく解る、という時がありますが、その時は何の不安もなく歌えます。

■大森先生とは

初めてお目にかかったのは堺シティオペラで。

二年くらい前に自分の声が自分ではどうしても分からなくなって、今回アモール役の田中さんに電話した時、ふと大森先生の話題になったんです。藁にも縋る思いで電話をかけて「声を見て戴けませんか」とお願いしました。その時二つ返事で見て下さって、「野間さんなら歌えるよ」と言って下さいました。

大森先生の発声はアレコレ言わず、一つのことだけです。その時も「今までの野間さんの声が、皆がびっくりするような声になるよ」と言われましたが、その通りに、その時から声が変わっていきました。二年前までは声を出すことがしんどく、歌うことがそんなに好きでありませんでしたが、スムーズに歌える問題解決の方法を下さいました。それが自分の身体に馴染んで歌えるようになるまで半年くらいかかりましたが、それまでは時分を騙し騙し不安になりながら歌っていたので、もし大森先生の助言が無かったら倒れていたかも。「今はそれでいい」とか「この声を使ってごらん」とか、いつも安心を与えて下さったことで乗り切れました。日本にはボイストレーナーが少ないのです。今も先生は安心の材料です。歌うことが楽しいと思えるようにもなりました。

最近「オルフェオ」をやるようになって気付いたのは、先生が非常にロマンチストな方だということ。夢をいつも持っている、心の真っ直ぐで綺麗な方。でもレッスンでは非常に明るい。いつも“陽”のエネルギーをたくさん出して自信をつけて下さる、非常にパワーのある方です。

■さて、次回のオペラですが

色々なことに既成観念を持たない方法でやるということで、合唱を皆でやるアイデア一つとっても、VOCでしか出来ない試みだと思っています。今回の週一回の練習でのオペラづくりも普段とは全く違うやり方。最初は、出来るのかな、どうするのだろうと思いましたが、普段はこうだ、という考え方を取り払うと面白く練習できています。あらゆることが新しい試みで楽しみです。

■野間さんが演じるオルフェオについて

興味をもって取り組めています。音楽は美しいし、しかも人間ではなく男女の性別を超えているため、自分と距離があって楽というのもあるかもしれません。オルフェオは純粋で誠実、優しくて勇気があって、弱いところもたくさんあって。でも信念を持っていて自分に与えられた才能と勇気をもって歩んでいこうとしている。

二幕では、地獄で生きて苦しむ人、妬む人と接するシーンがあります。私達は、たまたま音楽という才を与えて貰っていますが、それで何が出来るのかなあと考えることがあります。神戸市混声合唱団では病の人のところに行ったりするので尚更なのでしょうが、心の中、社会の中は、二幕のシーンにどこかで似ているなあと思います。死と直面したり、訳の分からない病で苦しんでいる人が、歌を聴いたり一緒に歌うことで病状が改善される場面に何度も遭遇しました。それは音楽が持つ力です。

また、苦しむし、嘆くし、悩むけれど、でも導かれて進んでいっている二幕でのオルフェオが、自分の水先案内人のような気がして、勇気づけてくれる作品です。私はオルフェオほど強くはないですが、この役を出来ることは嬉しいし、本番をいい演奏にしたいと思っています。


野間直子  Noma Naoko Mezzo Soprano

大阪音楽大学大学院オペラ科修了、英国の王立音楽大学オペラスクール修了

大学卒業と同時にチャンスに恵まれ、それ以降今日まで何と15年も色々なところで歌わせて頂いています。(改めて感謝!) 活動は、オペラのトレーニングを受けて来たのでオペラが中心です。印象的な役は[スズキ<蝶々夫人>、アルバート夫人<アルバート・ヘリング>、母<領事>]等、内容のある助演です。後、ここ数年、歌曲のすばらしさに目覚めてまるで恋愛でもしている気分です!今、歌うことが楽しくて、今日まで続けて来てよかったと思います。これからも、永遠に学び続けたいと思います!!

高須礼子、田原祥一郎、(故)ロドルフォ・リッチ、グラツィエッラ・シュッティ、大森地塩 各氏に師事

趣味は散歩。いろんな小さなものが発見できたり、いろいろなものと交感できて楽しいです。特技…どこでもすぐ眠れることかな?